「ごめん、急用ができちゃった」
例えばLINEの画面、例えば受話器越しの声、例えば面と向かって。このドタキャンの常套句を眼に、そして耳にした方は多いと思いますが、世界広しと言えど、こんな場所でこのセリフを吐かれたのは僕だけではないでしょうか。
う み www
相手はその日が初対面の出会い系のJD。はっきり言って、冴えないアラサーの僕とは釣り合わないにも程がある、スタイル抜群の超上玉でした。
ただのドタキャンなら良い。気に入ってもらえなかったんだなって、そう思えるから。
しかしこの言葉を聞いた直後、僕の視界に入ってきたのはあまりに無情な現実でした。
出会い系のJDと海に行った際に起きた、悲劇の体験談をお伝えします……。
暇を持て余した出会い系のJDと海に行く約束をしました!w
アラサーともなるとやはり腹回りが気になる。ここはいっちょ筋トレでもすっか! と思い立った直後のことでした、そのJDをゲットしたのは。なんとも間が悪い……。
思えば、この時から悲劇は始まっていたんですね……。
JDのみくちゃんと知り合ったのは出会い系サイトのYYCでした。その他大勢のJDと同じく、彼女も「なんか暇だったから」という理由で出会い系を始めたらしい。
「大学生はサークルとかバイトで忙しいイメージあるけどねー」
「それもするけど、急に遊びたい時とかはこういうのの方が便利だし」
「おーなるほど、こんな年上のアラサーおっさんと遊んでくれるの?w」
「年上好きだからいいよー♪」
ここまではなかなかの滑り出し。これはいけるとこの勢いで写メ交換をすると、
加工の跡はややあるものの、丸顔で眼パッチリの上玉JD! これはかなりテンションあがるやつですww
で、僕の方も送ってみたところ、
「えー、若いねー、カッコイイじゃん!」
何年か前に撮った痩せていた頃の奇跡の一枚に、さらにちょっと加工を加えた写メを送っところこの反応ww
この時、ごく普通の写メを送って断られていれば……
これは簡単にセックスまで行けそうだあと楽観視していたのですが、このみくちゃん、割とアウトドア派なことが判明しまして、適当にお茶とかカラオケからのホテルを目論む僕の提案をことごとく跳ね返してきやがります。
「海いきたい! この前水着買ったから!」
「水着いいねえ♪ じゃあ今撮りで送ってみてよ!w」
「えーやだー、海いったら見れるじゃーん」
ラインのメッセージを読みながら、僕は自分の腹を見下ろす。そこにあるのは自前の浮き輪と、横に伸びたへそがありました。
前もって筋トレしておけば……ッ!
しかしJDが会うことにかなりノリノリということもあり、このチャンスを逃すのはあまりに惜しすぎる。
僕は覚悟を決めました。海に、行きますッ!w
超上玉JDの登場に沸きまくる俺!しかしまさかの悲劇が……
海なんてもう何年ぶりレベルで行ってなかったのですが、やはり海の匂いが鼻先を掠める感覚はいくつになってもテンションが上がりますね。
みくちゃんとは海の最寄り駅で待ち合わせ。やがてスマホを持った、写メに似た女の子が見えたので連絡を入れると、その女の子がくるりと笑顔でこちらを向きました。
ヤバい、写メよりも可愛いパターンキタあああッ!w
最近は加工技術の発展により、写メよりも可愛いという現象がなかなか起きにくいのですが、このJDはそんなことお構いなしとばかりに高めのハードルを見事に超えてきました。
しかしそのハードル越えの整った顔が、こちらに近づくごとになぜかどんどん険しくなっていく。やがて相対した彼女の開口一番の言葉により、僕はその理由を察しました。
「えっと、人違いとかじゃ、ないですよね?」
人は自身の変化には疎いもの。気付けば今の僕は、写メの頃の僕とは似ても似つかない見た目を有するようになっていたようです……。慌てて取り繕う僕。
「あれは奇跡の一枚というか、まあそんな感じのやつでして……」
「……」
「あ、ほら何でも奢るからさ、行こうよ、海。ほら海の匂いするし」
するとみくちゃんが海の方に歩き始めたので、慌てて僕もその隣に並びました。
「今日は暑いね、絶好の海日和だね。もう楽しみでさ、下に水着着てきちゃったよ」
「……」
「着いたら何する? 食べる? 泳ぐ? あ、実は浮き輪持ってきてるんだよね」
「……」
もう完全に無反応。しらーっとした無表情がやけに怖いみくちゃんは、やがてスマホを取り出し、海に着くまでずっといじっていました。
そして念願の海。うっとうしいほど多い海水浴客の合間を縫って場所を確保した僕は、シートと途中で確保したパラソルを立て、更衣室に姿を消したみくちゃんを待ちました。
まさか、このままいなくなったりとかは……
最悪の結末が脳裏をよぎる。しかし案に相違してみくちゃんは姿を現しました。白い谷間が眩しい派手めの水着姿で。僕はビックリしました。細い身体には似つかない巨乳もさることながら、
彼女の顔には先ほどと打って変わって上機嫌な表情が浮かんでいたのです
僕は安堵しました。ようやく機嫌を直してくれたのかと。しかしその直後に彼女の口から発せられた言葉は、予想だにしないものでした。
「ごめん、急用ができちゃった」
……は?
俺氏、出会い系のJDを奪われて咽び泣きながら帰る羽目にww
「急用のできた」みくちゃんが姿を消してどれくらい経ったでしょう。そのままの状態で呆然自失とする僕の眼に、あるものが映りました。
黒く日焼けした細マッチョ2人組と、海で楽しそうに遊ぶみくちゃん
僕が見たこともない笑顔で、聞いたこともない笑い声で、触れたことさえない肌を男たちに触られながら楽しむみくちゃんの姿が、そこにはありました。ついさっきまで僕の隣にいたJDの姿が、そこにはありました。
大人になって泣いたのは、それが初めてでした。咽び泣きながら撤収作業を始めた僕は、周囲の人たちから奇異の視線を向けられながら、その場を後にしました。
おそらく彼女は更衣室に向かう途中か出た後でナンパにでもあったのでしょう。僕の元に上機嫌で戻ってきたのはそれが理由だ。
分かる、分かるよ。こんな冴えないメタボなおっさんより細マッチョのイケメンの方が良いのはよく分かる。
でもせめて、せめて別の場所で遊んで欲しかった。少し離れた海岸で、イチャイチャして欲しかった。そうすれば僕だって、
寝取られもいいな……
なんて思わなかったのに……ッ!
悲劇は新たな性癖を目覚めさせ、男をアブノーマルの世界へと導く。
なんて誰かの語りが脳髄を駆け巡らなかったのに……ッ!
海は危険です。色々と。皆さんもお気を付けください。